研究概要 |
極低温下マトリックス(MTHF)分離されたStarburst型ヘキサカルベンおよびノナカルベンは,それぞれ理論通りのスピン量子数S=6,S=9(磁気天秤による)を示す。これらと分枝状態の異なる異性体カルベン3種の合成・磁気測定を行ったが,内部回転の自由度が無視できず,カルベン間の分子内再結合等により期待されるスピン多重度に到達できない場合があることがわかった。 上記のカルベン合成では,トリス(アロイル)ベンゼンが重要な役割を果たすので,エチニルケトンの環化三量化反応の機構を解明するために,異種のエチニルケトンのモル比変化・Michael型アミン付加中間体の触媒作用の確認・交差環化生成物の精密解析などをおこない,所期の目的を達することができた。 超高スピン・オリカルベンの理想形と思われる蜂の巣状ポリカルベンのモデルとして,閉ループ構造を持つポリカルベン(n=3-8)の合成を試みた.常法によりまずカリックス[n]アレーンもしくは[1_n]メタシロファンを合成したが,当初の方法ではn=3で環化反応自体が進行しなかった.今後,環化スルフィドを経る方法を検討する必要があろう.n=4,6,8では[1_n]メタシクロファンを得たが,いずれも脱ヒドロキシル化反応の収率が非常に低く,条件検討の必要性が残った.次の酸化反応では,n=4でジケトン・トリケトンで反応が止まってしまった.n=6,8では相当する環状ポリケトンが得られ,n=6についてヘキサヒドラゾン,ヘキサジアゾを経て,光化学的手法により環状ヘキサカルベンとしたところ,基底十三重項が証明された.環状ヘキサカルベンの立体配座の推定のため環状ヘキサケトンの安定配座を計算したところ,カルボニル基とベンゼン環との共平面性が殆ど無いことが分かり,上記の系のスピン多重度がドポロジー的対称性により支配されることを支持する結果となった。 強磁性的な結晶構造を見いだすために2-ヒドロキシ-6-ナフチルニトロニルニトロキシド,2-ヒドロキシ-6-(N-オキシ-N-tert-ブチルアミノ)ナフタレン,およびこれらのマンガン(acac)_2錯体を合成し、X線結晶構造解析用の単結晶を育成中である.一方,π-スタッキングを利用するモデルとしてトリフェニレン骨格を合成できたので,所定の位置にカルボニル基を持つトリケトンへ誘導する予定である.
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