分子内におけるπ電子とn電子との相互作用についての理論的、ならびに実験的研究を目的として研究を開始した。芳香環上に橋頭位の窒素原子を配し、芳香環のπ電子と、窒素原子の孤立電子対が相互作用できる化合物を設計した。側鎖のメチレン鎖の長さを変え、π電子雲とn電子対との相対的距離を変化させ、相互作用の変化を観測する。 1、3、5-トリハロメチルベンゼンを出発原料として、トリエタノールアミンあるいはトリプロパノールアミンから得られたテトラアミン誘導体とのカップリングにより、橋頭位に窒素原子を有するアザシクロファン誘導体を得、脱トシル化、プロトン化、メチル化などを行い、それぞれについて、n-H-π相互作用に有無についての検討を行った。側鎖ベンジル位の窒素原子の存在のため、分子内空孔への確実なプロトンの包接を確認するため、橋頭位を覗く窒素原子のニトロソ化、脱窒素による側鎖部位の窒素原子の除去を狙った。しかし還元条件下での脱窒素環縮小は成功しなかったため、さらに硫黄架橋による大環状架橋化合物の合成、それからの脱硫黄原子による目的物の合成を目指した。予備実験で、硫黄架橋大環状化合物の合成、それからの脱硫黄反応による環縮小により、中央の窒素原子以外にはヘテロ原子を含まないシクロファン誘導体の合成に成功した。この手法を目的の1、3、5-置換体に応用するため、トリスメルカプトプロピルアミンとのカップリングを行ったところ目的のアザトリチア(1、3、5)シクロファンを得ることができた。現在のところ目的物を得るまでには至っていないが、環化化合物合成という、最大の難関を突破できたので初期の目的は近いうちに達成できると考えている。
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