研究概要 |
二個の芳香環を複数個のトリメチレン鎖で架橋した[3.3]シクロファン類を基本骨格とする構造的・理論的に興味ある新奇化合物を合成して、それらの構造と物性を明らかにする目的で、次の二つのテーマに焦点を合わせて研究を行い、以下のような研究成果を得た。 (1)多架橋[3_n]シクロフアン類の構造と物性 合成目標化合物である[3_6](1,2,3,4,5,6)シクロファン1は光によりヘキサプリズマン誘導体へ異性化する可能性が示唆されているほか、動的な構造にも興味が持たれる。1の合成ルートとして三架橋体に段階的に架橋鎖を導入するルートを検討し、アセチル基とそのpseudogeminal位に置換されたホルミル基との間の分子内アルドール縮合反応を利用する架橋鎖導入法を新たに開発し,この反応で得られるエノン体を還元することにより目標化合物1の合成に成功した。 多架橋[3_n]シクロファン(n=3,4,5,6)のテトラシアノエチレン(TCNE)との電荷移動(CT)吸収帯の変化より渡環π-π相互作用は架橋鎖数の増加に伴って強くなる事が明らかになった。1のCT吸収帯(710nm)は既知のシクロファン-TCNE錯体の中では最長の波長である。また温度可変^1H NMR測定結果から、六架橋体1のトリメチレン鎖は室温でも速やかに反転しており-70℃付近で凍結されることがわかった。反転のエネルギー障壁は10.6kcal/molと見積もられた。現在、光異性化による1のヘキサブリズマン誘導体への変換を検討している。 (2)ジメチルジヒドロピレン環を基本骨格とする14π系二層アヌレンの合成研究 環状共役化合物どうしを平行に重ね合せるように近づけた場合、(4n+2)π系どうしの相互作用は系を不安定化させ、(4n)π系どうしでは逆に系を安定化させるという予測がなされている。14π電子系の相互作用を調べるために、15,16-ジメチルジヒドロピレン2二個をエタノ架橋した二層アヌレン3の合成を計画した。立体的に歪みのかかった[2.2]メタシクロファンは光化学反応によりジメチルジヒドロピレン誘導体に変換するという報告を参考にして、二層アヌレン3の誘導体の合成を進め、現在、目的物の単離を行っている。また、独自にこの光変換反応条件を検討して、酢酸溶液への低圧水銀灯照射が最も適した条件であることも明らかにした。
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