研究概要 |
3-(1,4-ジメチル-9-トリプチシル)-3-メチルブタン酸の2-チオノ-1-ピリジルエステル回転異性体を合成し、その熱分解および光分解を行なって、生成するラジカルの性質を検討した。ap異性体から熱分解によって発生したラジカルは、主としてラジカルが近傍のベンゼン環と反応した環状化合物を与えたが、光分解においては、上記環状化合物は痕跡程度しか生成せず、主生成物は、チイルラジカルとのカップリング生成物と生成したラジカルの2量体となった。一方、sc体の熱分解によって発生させたラジカルは、主として、ラジカルが1位に転位した後チイルラジカルとカップリングした化合物と少量の転位したラジルの2量体を与えたが、固体の光分解においては、上記チイルラジカルとのカップリング生成物は痕跡程度となり、主生成物は転位する前のラジカルがチイルラジカルとカップリングしたものとなった。溶液の光分解においては、転位したラジカルの2量体が顕著に増加した。これらの結果は、次のように解釈することができる。光分解と熱分解においては、ラジカルが発生する温度が大きく異なる。そこで、熱分解反応では、発生したラジカルの寿命内にそのラジカルが移動する距離が長く、カゴから飛び出した生成物が多くなる。一方、光分解では、温度が低いためにカゴ内生成物が主生成物と成ったものであろう。sc異性体において、ラジカルが容易に転位するのは興味深いが、これはベンジルラジカルが通常のアルキルラジカルよりずっと安定なために起こるものと考えられ、ラジカル反応においても、回転異性体の反応性に大きな差が有り得ることを示す最初の例となった。現在、上記カルボン酸から過酸のt-ブチルエステルに導き、その熱分解反応の研究を開始した。
|