本研究のめざすところは、メタルオキソ基のような分極した中心金属グループを含有する錯体を合成し、液晶相においてその整列を促すことによって強誘電的応答を引き出すことである。この目標に向けて、平成7年度は以下2項目の実施計画に従って研究を行った。 1.ビス[4-アルコキシ-N-(4-アルカノイルオキシフェニル)サリチルアルディミナト]オキソバナジウム(VO)錯体の合成とキラル修飾。金属サリチルアルディミン錯体の液晶性については以前から検討を進めているが、特にこの型の銅錯体の3同族系列に関し、スメクティックC相の発現要因を双極子相互作用の見地から解析整理した。しかし、対応するVO錯体は概して高い融点を持ち、キャラクタリゼーションに困難を来す例が多いことがわかった。そのため、以前に検討したN-アルキル配位子を再度採り上げることとし、salen型錯体を含むカラミティック液晶性の新規錯体を導いた。現在キラルなジアミンを用いた修飾を進めている。 2.新規ジチオカルバメート配位子を含むVO錯体の合成とキラル修飾。ピペラジン-1-ジチオカルボン酸の4-アルキル誘導体を用いて、スメクティックC液晶性錯体の3同族系列を得た。パラジウム錯体のデシル同族体を用いて、固体NMR測定と単結晶構造解析から得た分子運動の知見をもとに、ピペラジン環とアルキル尾部にそれぞれメチル基を導入したが、液晶性が損なわれる結果となった。しかし、後者はキラルドーパントとして働くことがわかり、類縁の錯体に混合してキラルスメクティックC液晶を誘導する道が開かれた。 また、昨年度整備した液晶高温装置付X線回折計を用いて、N-ヒドロキシアルキルサリチルアルディミン誘導体の多核銅錯体の中間相挙動を明らかにした。この物質群はアミノアルコールをキラリティ源とする新規材料として有望であり、今後さらに研究を進める予定である。
|