本研究のめざすところは、メタルオキソ基のような分極した中心金属グループを含有する錯体を合体し、液晶相においてその整列を促すことによって強誘電的応答を引き出すことであった。この目標に向けて、平成8年度は以下3項目の実施計画に従って研究を行った。 1.スメクティックC相が発現する金属サリチルアルディミン錯体液晶における双極子効果の解明。目標とするオキソバナジウム錯体等は高温で熱分解を起こし、結果の解釈に支障を来すことがわかってきたので、代わって銅錯体を用いることとし、広範な事例について相転移、液晶構造等のデータを集積・解析した。遊離配位子を対照系としてスメクティックA/Cの多形現象を比較検討することにより、錯体において分子配列の傾きがむしろ弱められる傾向が判明し、液晶設計上重心密度波と双極子密度波の整合が重要であることが示唆された。 2.ジチオカルバメート錯体によるキラルスメクティック液晶系の構築。7年度以来の研究により、やはりスメクティックC相が発現する4-アルキルピペラジン-1-ジチオカルボン酸のパラジウム錯体と、これにキラルなメチル分枝を導入した錯体が得られた。後者の液晶性は消失したが、前者、および同族の液晶性錯体と混合することによってキラル相を誘導することができた。 3.重畳なアルキル置換を施した[M (salen)]型の新規液晶物質の合成。サレン錯体は当初計画で考慮したが、同種の研究が報告されたために中断していた経緯がある。その後詳細が公表されないので、本研究においてあらためて取り上げたところ、ニッケル、および銅錯体においてディスコティックと考えられる液晶相が見い出された。後者について中心対称性の二量体凝集を示唆する結果が得られ、この型の金属錯体液晶における双極子秩序化過程の可能な問題点が明かとなった。
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