研究概要 |
トランス-ポリアセチレンを代表とする有機共役系において、一次元電子と格子が強く結合したソリトンやポーラロンなどの非線形素励起が特異な物性の原因であるとの立場から、非常に多くの研究が行われている。しかし、有機共役系化合物は良質の単結晶を得にくいことや鎖間相互作用も判然としないことから明確な結論を得ることができず、新しい物質の開発が望まれていた。我々は鎖間相互作用の異なる2種類の擬一次元ハロゲン架橋白金系混合原子価錯体の光誘起吸収スペクトルを測定を行うことにより、ソリトンとポーラロンの帰属を行いそれらのダイナミクスについて調べた。 用いた化合物は[Pt(en)_2][Pt(en)_2X_2](ClO_4)_4(X=Br,I)と[Pt(chxn)_2][Pt(chxn)_2X_2]X_4(X=Br,I)である。前者は鎖間相互作用がほとんどなく一次元CDW系であり、後者は鎖間がカウンターイオンとの間で二次元的に強い水素結合でつながれており二次元CDW系である。光誘起吸収スペクトルの結果、前者の化合物ではミッドギャップ領域に3本の吸収が現れたが、経時変化やエネルギー位置や数より、中央の吸収がソリトンに両端のものがポーラロンに帰属された。一方、後者の化合物では2本の吸収しか現れなかった。これらはポーラロンに帰属された。このようにポーラロンは構造の違いに関わらず現れ、ソリトンは一次元系のみに現れた。つまり前者の化合物では鎖間相互作用がないため鎖の位相が途中で逆転することによりソリトンは容易に生成されるが、後者の化合物では鎖間に強い相互作用があり位相が揃っているため、一つの鎖の位相が途中で逆転することは難しくソリトンは生じない。このように鎖間相互作用の違いを利用することによりソリトンの出現を制御できるようになった。
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