研究概要 |
今年度は|Cr(acaX)_2(NIT2-py)|^+(X=H,Cl,Br)の合成と電子スペクトルおよび磁性の測定・解析を行い、ラジカルとクロム(III)錯体間の磁気的な相互作用は反磁性的であり、また錯イオン間の磁気的相互作用も通常のクロム(III)錯体に比べて、大きいことがわかった。これに引き続き、|Cr(acaX)_2(NIT2-py)|^+(X=CH_3)の合成に成功したので、同様に磁気・光学的特性の検討を加えた。その結果、メチル誘導体の場合は、これまでの反磁性的な相互作用を示すNIT-2py錯体とは違って、ラジカルとクロム(III)錯体の間には強磁性的相互作用が見られた。しかし、電子スペクトルには、スピン禁制帯の強度増大がいずれも観測され、大きな違いは見られなかった。さらに、脂肪族エチレンジアミン配位子を含む|Cr(en)_2(NIT2-py)|^+の合成を試みたが、今の所、複塩の形で、なおかつ、再現性には問題があるものの元素分析からは|Cr(en)_2(NIT2-py)||Cr(en)_2(CH_3CN)_3|(CF_3SO_3)_6・2H_2Oとして得られたものと考えられる。これは電子スペクトルでも、スピン禁制帯の強度の増大が見られたことから、ラジカルとクロム(III)錯体の磁気的な相互作用の存在が明らかであることがわかった。 現在、tempo=Oとtempo-NH_2をラジカル配位子とする|Cr(acac)_2(tempo=O or tempo-NH_2)_2|^+の合成を試みているところである。元素分析からは組成的に確認できたが、ほとんどで通常のクロム(III)錯体と変わりない電子スペクトルが観測され、ラジカルとクロム(III)錯体との磁気的相互作用が小さいことがわかった。これからは、ESR測定によって、ラジカルの存在を確認する予定である。
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