ガス中蒸発法によって作成された金超微粒子コロイド系は分散媒である有機溶媒と分散ゾルである金微粒子のみからなる極めて清浄な分散系である。コロイド化学的に作成される通常のゾルのように界面活性剤や解膠材などのようなコロイド安定化剤や反応副生成物等の夾雑物を全く含まないため、粒子表面は金属コロイド系の中では極めて清浄な表面を有し物理的な評価に耐えうる系でもある。この様な清浄系において大きさ10nmの金超微粒子に可視光を照射することにより暗所では数カ月以上にわたって安定であったコロイド系が急速に凝集することが我々によって見いだされた。この現象を理論、実験両面から解明するのが本研究課題の目的である。 金ナノコロイドの作成は我々がこれまで十年以上従事してきた物理的な作成法であるガス中蒸発法によった。純度6x9%以上の高純度He中で作成された金ナノコロイドを2‐プロパノール中に捕獲する溶媒トラップ法によって作成した。このコロイド分散液を数日間寝かし安定化したものをArレーザー光を照射し、そのパワー依存性、コロイド濃度依存性、および照射前後での金ゾルの表面電位の測定を行った。レーザーパワー依存性の実験からこの現象には最小のパワー閾値があり、線形な現象ではないことが分かった。希薄なコロイド系ではレーザー照射と共に270nmの吸収が増大しこれと共に530nmのプラズモン吸収の増加が認められた。NMR測定ならびに標準試料の吸収測定により270nmの吸収はアセトンに基づくものであることが分かった。これは2‐プロパノールが光照射によってプロトンとアセトンに解離し、電子はコロイド粒子は移行したものである。これに伴い粒子の表面電位は-40mVから-60mVへ増加した。また電子顕微鏡観察によってコロイド粒子は分散していることが分かった。この現象はコロイドの標準理論によれば粒子の表面電荷の増加によって解釈される。一方高濃度の系では光照射によりプラズモン吸収が減少し長波長の吸収が増大する粒子凝集に特徴的な挙動が見られた。電子顕微鏡によってもこれが裏付けられた。このとき表面電位には変化が無く、この現象はプラズマ系によって吸収された電磁波のエネルギーが局所的に粒子周辺の温度を上げたものと考えられる。しかしコロイド分散液の温度を75℃にしても観察された現象を定量的には再現できなかった。
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