リン脂質のジミリストイルホスホチジルコリン(DMPC)とジミリストイルホスハチジルグリセロール(DMPG)のラメラ液晶状態における二分子膜の熱的性質およびこれらのリン脂質によるヘキサデカンの乳化特性について解明した。まず、DMPCの水分散系またはDMPGの水分散系について、定圧熱容量の温度依存性、平衡界面拡張圧の温度依存性、X線回折による二分子膜厚の温度依存性、電子共鳴(ESR)スペクトルの温度依存性、ゼータ-電位の温度依存性、示差走査熱量計(DSC)の測定などが主に測定された。その結果、リン脂質の二分子膜はゲル液晶転移温度Tm(DMPCは23.5℃で、DMPGは23.7℃である)より数度高温側の(L_α+H_2O)相に高次相転移を示すことが本研究の種々の膜物性の測定より新しく見いだされた。DMPCとDMPGの高次相転移温度T^*はそれぞれ29.0℃と31.7℃であった。このTP^*温度はリン脂質二分子膜の臨界温度と呼ばれ、この温度T^*の前後でラメラ液晶の物理的および界面化学的性質が明らかに異なることが見いだされた。そのために、すでに報告されていたDMPC-水系の相図中に本研究の結果を入れることができた。次に、T^*前後でDMPC分散系によるヘキサデカンの乳化性とその安定性について調べた。エマルションの熱的性質はDMPC分散系のラメラ液晶の性質に依存することがわかった。また、エマルションの表面はTmとT^*の温度範囲でDMPCの三重層膜で覆われるが、T^*以上の温度では単分子吸着層となって安定化することが分かった。そのため、DMPCエマルションの動的安定生について調べた結果、合一の活性化エネルギーはT^*以下の状態に比べてT^*以上では約2倍となった。この結果は実際にエマルションがTmとT^*の間の方がT^*以上の温度より安定であるという知見を説明することが可能となった。
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