研究概要 |
五酸化バナジウム水和物の固体化学的研究が始まったのは約10年前で,その意味でこの物質は比較的新しい物質である.モンモリロナイトに似た層状構造を持ち,種々の極性分子をインターカレートすることができる.本研究では,(1)層間における水分子の吸着状態とプロトンの伝導性との関係,(2)層間への水分子の拡散過程の吸着速度測定による解析,(3)層間におけるアンモニアと水分子,および層表面との相互作用について調べた.また,(4)結晶構造の解明の手がかりを得るため,ESR測定を行った.その結果は, (1)層間に導入された水分子のプロトンのホッピングによる伝導性は、a-軸方向に比べて,b-軸方向の方が著しく大きいことが明らかとなった.偏光赤外の解析から,これは水分子の吸着の異方性に起因するものでなく,構造的にb-軸の方が水分子の配列が密であることによると考えられる。 (2)五酸化バナジウム水和物層間における水分子の拡散は,a-軸横行への拡散が主たるものであることが,吸着速度の解析から明らかになった.その拡散の活性化エネルギーは,液体の水,氷状の水の値より相当小さく,ここでの拡散が,すきまのある広い空間を通ってのものであることを意味している. (3)層間にインターカレートされたアンモニアは,その後から導入された水分子,層表面と反応して,メタバナジン酸アンモニウムをトポタクチックに生ずる.このとき水和物のc-面を一致させながら反応する. (4)水和によってV^<4+>によるESRスペクトルは異方性のものから,等方性のものに変わる.このことは層間にV^<4+>種およびV^<5+>の存在の可能性も示唆している.紫外線照射によってV^<5+>はV^<4+>に還元される.
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