有機溶媒中の生体触媒を利用してケトンを不斉還元する方法の開発を行なった。 1)生体触媒としてはパン酵母が入手容易であるため、パン酵母の利用を考え、また、パン酵母から酵素の単離を行なった。パン酵母の利用では反応をベンゼンやヘキサンのような極性の低い有機溶媒中で行なうことに成功し、また、その際、還元における立体選択性が水中と異なることを見いだした。その原因を探るためにパン酵母より酵素を単離し、各酵素の立体選択性や性質および速度論的解析を行なった。その結果7種類の酵素が単離出来た(YKER-1〜7と命名した)。有機溶媒を使用するとパン酵母の中の基質濃度が極端に低下するために取り込み定数の小さな酵素(YKER-4)が活性になり、有機溶媒中の還元の立体選択性はYKER-4が選択的に働いていることで説明が可能となった。 2)パン酵母では還元できる基質に限りがあるために他の微生物の利用を考えた。乳カビの一種であるゲオトリカムが多様な基質を還元出来ることを見いだしたので、生体触媒としてゲオトリカムを用い、有機溶媒中で芳香族ケトンを還元した。菌体としてゲオトリカムを用いるとイソプロパノールや2-ヘキサノール等の2級アルコールが還元剤として利用出来ることを見いだした。この発見により有機溶媒中で効率良く還元反応を進行させることが可能となった。芳香族ケトンのゲオトリカムによる還元は水中では立体選択性は非常に悪いが、ヘキサン中では高い選択性で還元が進行することを見いだした。 以上の様に生体触媒としてはパン酵母とゲオトリカムを使用し、有機溶媒中でケトンの還元が進行することを見いだし、有機溶媒中の生体触媒による還元反応の開発に成功した。また、有機溶媒中の反応は水中とは立体選択性が異なることを見いだし、新しい立体制御法を開発した。
|