生体触媒を用いる反応は有機合成に広く応用されているとは言い難い。その主な原因は生体触媒は水中で活性であり、有機合成に使用される種々の基質は有機溶媒に可溶で水にとけにくくいことであると考えられる。従って、有機溶媒中で生体触媒の反応を進行させることが出来るならば有機合成に非常に役立つことになる。現実にリパーゼは有機溶媒中の反応が可能となっているので多くの有機合成化学者に用いられている。本研究で取り上げた還元反応においては有機溶媒中の反応はほとんど例がないので、基礎的な研究を行なった。 平成7年度はパン酵母を有機溶媒中で反応させる際にどのような酵素が主として働いているかを検討するためにパン酵母より酵素を単離して酵素学的研究を行なった。前年度の研究でケトンを還元する際にパン酵母を水中で反応させるのと有機溶媒中で反応させるのとでは得られるアルコールの立体選択性が異なることを見いだした。従って、水中では立体選択性が良くない反応系でも有機溶媒を使用することにより改善出来たり、異なる絶対配置を持つアルコールを合成出来ることが分かった。本年度で得られた結果と、実際に有機溶媒中で反応させた場合に得られた立体選択性と比較することにより、取り込み定数(Km)の小さな酵素が有機溶媒中では非常に有利であり、反応はKmの小さな酵素を触媒として進行していることを見いだした。 また、本年度は有機溶媒に可溶な還元剤の開発を行なった。有機溶媒中で還元が進行するためには、良く用いられているグルコースの様に水に溶けるが有機溶媒には不溶の還元剤は効果がないので、生体触媒による還元を進行させるためには有機溶媒に可溶な還元剤の開発が必要である。 種々検討した結果、一級のアルコールは還元剤とならないが、2-アルカノールが非常に効果的な還元剤となることを見いだした。このことは生体触媒による不斉還元を有機溶媒中で行なうために有用な指針となると考えられる。
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