光学活性化合物の有用性は、医薬、農薬などの開発をはじめ、多岐に及んでおり、その効率良い不斉合成法の確率は有機合成化学上の重要な研究課題である。 本研究においては、現在までにほとんど開発されていない有機溶媒中の生体触媒によるケトンの不斉還元を実用的な合成法として開発する目的で、生体触媒反応に及ぼす有機溶媒の影響を検討した。その結果以下に示す成果を得た。 1)パン酵母による有機溶媒中の還元に成功し、特にα-ケトエステルの還元においては水中と有機溶媒中とで得られるアルコールの絶対配置が異なることを見い出した。また、それらの立体選択性の違いを調べるために酵素を単離し、酵素反応を検討することにより、有機溶媒中の生体触媒による還元の反応機構を解明した。 2)チチカビによる芳香族ケトンの還元では水中では収率および不斉収率共に良くないが、菌体を吸水性樹脂で固定化し、有機溶媒中で反応を行うと99%以上の不斉収率で光学活性アルコールが得られた。このように反応系を水系から有機溶媒系にすることにより微生物反応の立体制御を達成することができた。 3)リパーゼを利用した有機溶媒中の酵素反応では有機溶媒の種類により反応の立体選択性が変わり、また、その選択性は溶媒の極性および形に依存することを見い出した。この傾向は微生物還元においても存在すると考えられ、今後の有機溶媒を使用した還元に大きな示唆を与えるものである。 以上のように、本研究では生体触媒によるケトンの還元を有機溶媒中で進行させ、立体選択的に光学活性アルコールを得るための基礎研究および方法の開発を行った。
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