癌の光化学治療の光増感剤として期待されている水溶性金属クロロフィル類の精密合成法及び高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による分離定量法を検討した。現在、食品着色剤や医薬品等に使用されている鉄(III)クロロフィリンナトリウムは、天然の植物色素より抽出したクロロフィル類を原料としているため、主成分以外の鉄(III)クロロフィル誘導体を含有している。本研究では、鉄(III)クロロフィリンに含まれている主成分(鉄(III)フェオフォーバイドa、鉄(III)クロリンe_6、鉄(III)クロリンe_4)のHPLCによる精密合成法を開発し、逆相系化学結合型オクタデシルシリカ(ODS)を固定相、0.01Mテトラメチルアンモニウムクロリドを添加したアセトニトリルーリン酸緩衝液系の移動相を用いたHPLCにより鉄(III)クロロフィリンの各成分の分離定量法を確立した。各鉄(III)クロロフィリン成分の純物質のHPLCによる精密合成法が開発されたことにより、鉄(III)クロロフィリン中のどの誘導体成分が光増感剤として最も有効であるかを臨床分野で検討することが可能となった。また、精密合成法により得られた鉄(III)クロロフィリンの各成分の電子スペクトル、ESRスペクトル、FAB-マススペクトルなどの分光学的性質と分子構造との相関を解明することにより、光増感色素の分子設計のための基本指針を提案した。これらの基礎的知見は、金属クロロフィル類の癌細胞集積特性を理解するうえで極めて有効であると考えられる。
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