本研究では、鋼素材表面に作成したプラズマ溶射厚膜の緻密化改質を目的として、Mn及びMn-Cu系合金の活性液体浸透及び液相焼結による多孔質溶射皮膜の緻密化処理法を開発し、高緻密、高靭性及び高温安定性のあるZrO_2皮膜の作成技術の確立を図った。主な関連検討項目について、ZrO_2(8%Y_2O_3)溶射皮膜に対するMn系合金液体の浸透・焼結挙動と合金組成、熱処理条件との相互関係の解明、同法により緻密化されたZrO_2皮膜の諸物性と処理条件、皮膜微構造との関係の調査を中心に検討を行った。その主な結果を以下に示す。 1.≦1.33×10^<-1>Paの真空又は大気圧下のAr、N_2雰囲気において、熱処理により加熱された純Mn及びMn組成が35%以上のMn-Cu合金液体は大気プラズマにより作成したZrO_2溶射皮膜の内部貫通気孔に急速に浸透して充填するのが認められ、その浸透は毛細管浸透によるものである。また、合金液体の溶射皮膜の貫通気孔内部での浸透性及び濡れ性との関係を実験と数値解析により明かにした。 2.溶射皮膜の微細貫通気孔に浸透・充填したMn及びMn-Cu合金液体の焼結作用により、ZrO_2容射皮膜の偏平粒子間の再結合、組織の緻密化が進行し、≧1473K及び7.2ks以上の熱処理条件において高緻密組織(密度≧99%)の皮膜が得られた。組織緻密化の駆動力である毛細管力は焼結初期では8〜25N/mm^2に達し、合金組成又は処理温度の増加に比例して組織の緻密化速度に著しく影響するのが認められた。また、皮膜組織の微細化、緻密性の制御はMn-Cu合金液体の組成及び加熱条件の制御により達成できるのが認められた。 3.ZrO_2溶射皮膜に対するMn及びMn-Cu合金液体の浸透処理において、焼結の進行に伴いMnのZrO_2粒子への拡散現象が認められ、MnイオンのZrO_2粒子内部への固溶により純ZrO_2の場合では単斜晶構造の安定相である立方晶構造への遷移及び相転換温度域の低減、ZrO_2(8%Y_2O_3)の場合では立方晶相の維持が認められた。 4.ZrO_2容射皮膜/素材の界面結合はMn-Cu合金液体の浸透処理により強化したのが認められ、結合の向上は合金液体による焼結反応層の形成及び皮膜の緻密化・高靭性化による界面応力への抑制によると考えられる。 5.Mn及びMn-Cu合金液体の浸透処理により得られた緻密化ZrO_2(8%Y_2O_3)皮膜の破壊靭性、弾性、硬さ、粒子間の破壊応力及び酸素イオン導電率等の諸物性は溶射皮膜のas-coatより大幅に向上したのが認められ、その中でも破壊靭性値及び硬さはそれぞれ4.7MN/m^<3/2>と1300Hvに達し、as-coatの1.8倍と2.9倍となり、部分安定化焼結体(PSZ)と同様なレベルに達するのが認められた。
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