研究概要 |
本研究では特殊なキレート剤、金属錯体、金属イオンなどを組み合わせて、合成された定比複合クラスターを用いて、これまで不明であったシナジ-の原理の分子レベルでの解明を試みた。これまで、アルミナ担持触媒の調整時にキレート剤(NTA)をMoとCoの塩に共存させると、相互促進的に作用するサイト(活性点)がほぼ選択的に形成され、ベンゾチオフェンの水素化脱硫反応(HDS)などに特異的な活性を示すことを明らかにしていたが、さらに効果の大きな新たなキレート剤(EDTA,CyDTA)を発見した。CyDTA添加の場合、HDS活性は無添加に比べ70%もの向上が見られた。しかしながら、これらのキレート剤を含む錯体のゼオライトケージへの取り込みおよび、ケージ内での複合キレート錯体の生成は確認できなかった。 活性促進のメカニズムについて配位不飽和サイトの情報が得られる吸着NOのFT-IR測定、活性点の局所構造に関する知見の得られるMo K-edge EXAFSにより検討した。その結果、キレート剤の添加により、硫化後の作用状態において活性点の支持構造体と目されるMoS_2クラスターの分散度は大きくなる場合も小さくなる場合もあった。一方、配位不飽和サイトの増加も、活性の増加を説明できるほどではなく、配位不飽和サイトあたりの活性が大幅に向上していることが明かとなった。活性点の形成には高度に分散したCoの存在が不可欠であることはこれまでも指摘されてきたが、このキレート剤の添加により活性点近傍の構造を大きく変えることなくCoの分散性のみ向上できる可能性が示された。 一方、活性金属の組合わせ(Co-Mo)を変えてアルミナ担持触媒(Ni-Mo、Ni-W)を調整し、それらのHDS活性を検討した。その結果、NTAやCyDTAを添加してもNi-MoのHDS活性には殆ど変化が認められなかったが、Ni-Wについては、CyDTAを添加することによりHDS活性は大きく向上(約60%)することが見出された。Co-Moに比べ、キレート無添加でも元の活性の高いNi-Moには、キレート剤による活性促進効果が発現していない。これはキレート剤添加による活性促進効果の上限を示すとも考えられ、キレート剤の添加効果を発現させるためには、活性金属の組合わせも重要な因子になっていることが示唆される。
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