本研究では、動物細胞培養系の培養液中のグルコースやグルタミンなどの基質、乳酸などの代謝産物、抗体やサイトカインなどの生産目的蛋白質など、各種成分濃度を赤外吸収スペクトルを用いて総合的にオンラインモニタリングする技術を開発することを目的としている。 本年度は、第1に、抗体-抗原反応を利用したELISA法により生成した反応物質の量をFT-IRで測定することにより、間接的に抗体濃度を測定できるという前年度までの成果を踏まえ、ELISA法に用いる標識酵素、基質を種々に検討した。すなわち、前年度に見出したグルコースオキシターゼ、グルコースの組み合わせ以外の、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼなどの酵素と種々の基質についても検討を行ったところ、酵素としてアルカリホスファダーゼ、基質としてフェノールリン酸を用い、生成物であるフェノールを測定する系が、反応時間、FT-IR測定の感度という点から最適であることがわかった。この知見に基づき、酵素標識抗体として一本鎖抗体とアルカリホスファターゼのサブユニットを遺伝子レベルで融合させた組み換えキメラタンパク質を大腸菌で発現するシステムの構築を行った。このキメラタンパク質は抗原認識能、酵素活性ともに保存し、ELISA用の酵素標識抗体として十分な性能を持つことを確認した。 第2に、オンラインモニタリングシステムのプロトタイプ、すなわち、バイオリアクターからの培養濾液のサンプリングシステム、逆浸透膜によるサンプル濃縮システム、FT-IR測定システムを結合したモニタリングシステムを作製し、本システムの性能評価を行うと共に、問題点あるいは改善すべき点の抽出を行った。その結果、逆浸透膜によるサンプル濃縮システムの濃縮性能は、サンプルの処理回数が数十回を越えると膜面上のタンパク質によるファウリングのために透過流束が極度に低下することが明らかとなり、膜面の洗浄が長期運転の際には不可欠であることが示唆された。また、濃縮操作後に急速に減圧すると、濃縮されたサンプルに溶解した酵素が急激に気泡となって発泡し、次の測定系へ導入サンプルに気泡が混入することがわかった。これを、防ぐためにはゆっくりと減圧する方法が有効であった。また、FT-IR測定系については、長期運転時のドリフトと、ATRプリズム面上へのタンパク質の付着に伴いRT-IR装置の測定感度が低下することが問題であった。
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