研究概要 |
1。培養細胞の誘導条件:植物材料としては,日本産のイチイTaxus cuspidataの葉と茎を用い,窒素源を制限した改変ガンボルグB5固体培地上に置床した。その結果,NAA 0.5ppm,カイネチン0.2ppmの条件では,ほとんどすべての外植片から一週間程度でカルスが誘導された。しかし,この条件では,三週間を過ぎたあたりから,細胞が褐色物質を生産し始め,2〜3ヵ月で増殖を停止してしまった。 2。培養細胞が生産する増殖阻害物質の定量:フォリン・チオカルト試薬を用いた定量の結果,この褐色物質の量は,フェノール性の化合物の量と比例関係にあることが確かめられた。 3。吸着剤の添加による増殖阻害物質の影響の軽減:褐変物質の影響を軽減源するために,その吸着剤としてポリビニルピロリドンを加えて培養してみたが,カルスの増殖に対して顕著な効果は観察されなかった。 4。培養細胞の増殖速度に及ぼすホルモン濃度の影響:そこで,NAA 0.5 ppm,カイネチン0.2 ppmの条件で誘導したカルスを3週間後にホルモン濃度およびその種類の異なる培地へ移植し,3ヵ月後のカルス増殖に対する効果を検討致した。カルスの増殖度はオーキシン濃度に大きく依存し,NAAと2,4-Dを高濃度で加えることにより9倍近い値が得られた。NAAと2,4-DではNAAの方が優れていた。 5。タキソ-ルおよびその前駆体の含有量の定量:固体培養3ヵ月のカルス中のタキソ-ル含有量は天然物中とほぼ同程度であった。また,増殖に良い条件は必ずしも生産に良い条件ではなかった。さらに,このようなホルモン濃度に対する依存性は,さらに長期間の培養を行なうことにより変化し,比較的NAA濃度の高いカルスのタキソ-ル含有量が増加し、増殖速度が低下するという,増殖と生産の負の相関を示す傾向が観察された。また,タキソ-ルの前駆体と推定されるHPLCピークの存在も確認した。
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