本研究で行ったX線分析とSTM装置を組み合わせる研究は世界で始めての試みであった。このため、実験条件を探り、得られた結果が何に起因するものなのか、そして、この実験結果にはどのような情報が含まれているのか、といった非常に基本的なところから1つ1つ調べていく必要があった。よって、実験を初めて1年以上もまともな成果が得られなかったが、平成7年の春頃から糸口が得られ始めた。 STM探針近傍にX線(数keV)を照射するトンネル電流とは異なる電流が観測された。このX線励起電流の特性について調べる基礎的な実験を行った。具体的には、X線照射時の入射角依存性、STM探針近傍のガスの種類とそのガス圧依存性、試料へのバイアス電圧依存性、X線強度依存性、試料の種類依存性などについて試料から発せられる蛍光X線の測定と併せて調べた。その結果、X線励起電流はX線照射に伴って試料表面から発せられる光電子・Auger電子に起因し、これらの電子が探針に引き寄せられる過程でガス分子・原子と衝突を繰り返し、これらを電離することによってさらに多くの電子を生み出していることがわかった。現在、線分析を行ってこのX線励起電流による局所分析の可能性を探っている段階である。 当初の目標であった1原子分析への応用までは今回の研究期間内に成果を得ることができなかったが、今後も実験を継続し、特に、照射するX線のエネルギーを変えながら測定を行っていく計画である。
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