本研究では、まず質量分析装置の分解能の改善を行った。その結果、1質量ユニットを明確に区別できるようになり、含塩素化合物に適用した場合には、塩素の同位体存在比に比例する分子イオンを検出できるようになった。また光源に広域波長可変レーザーである光パラメトリック発振器の第二高調波及びその誘導ラマン光を利用することにより、180nm付近の真空紫外域のレーザー光を発生させ、これを光源とする超音速分子ジェット分光分析装置を完成した。 核酸関連化合物について詳細に検討した結果、超音速分子ジェット特有の鋭い励起スペクトル及び多光子イオン化スペクトルを示さないことがわかったので、これについては昨年以上の検討は行わなかった。一方、現在では発泡スチロールなどの合成高分子の環境汚染が新聞等でも数多く報道されるようになった。そこでレーザー蒸発法だけでなく熱分解法による方法についても研究を行った。発泡スチロールを加熱分解して生成したオイルを本分析装置で分析した結果、スチレン、トルエン、ベンゼンなどの典型的な低分子化合物が検出されることがわかった。今後微量成分についても検討したいと考えている。 実試料を分析するには、測定装置の開発だけでなく、帰属のための手法を確立する必要がある。本研究では、レーザー波長を有効数字5桁以上の精度で求められるウエーブメータを利用してデータベースを作成する方法とともに、得られたスペクトルデータの類似性から試料分子を同定する方法についても研究を行った。
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