本研究では、反射型飛行時間型質量分析装置の改良により、含塩素化合物に適用した場合には、塩素の同位体存在比に比例する分子イオンを正確に検出できるようになった。またイオン化室を液体窒素で冷却することにより、バックグラウンドを低下させ、感度を改善した。また広域波長可変レーザーである光パラメトリック発振器の第二高調波及びその誘導ラマン光を利用して真空紫外レーザー光を発生させ、これを光源とする超音速分子ジェット分光分析装置を完成した。 加熱法並びにレーザー蒸発法を用いて高分子を分解する方法について検討し、両者を比較検討した。その結果、レーザー蒸発法はモノマーの親分子イオンが顕著に観測されるのに対し、熱分解法は数個のモノマー分子が結合した分子のイオンが観測されることがわかった。最近、発泡スチロールなどの合成高分子の環境汚染が新聞等でも数多く報道されるようになった。そこで発泡スチロールを熱分解して生成したオイルを分析した結果、スチレン、トルエン、ベンゼンなどの典型的な低分子化合物が検出されることがわかった。また、多光子イオン化にフェムト秒エキシマーレーザー(500fs、 248nm)を利用する方法について研究を行ったところ、ナノ秒レーザーパルスを用いた場合と比較して、イオン化効率が格段に向上した。さらに親分子イオンをより選択的に生成することも判明した。生体高分子である核酸の塩基の一種であるアデニンのイオン化にもフェムト秒レーザーを利用したところ、親分子イオンに基づく顕著なイオンが観測され、合成高分子と同様の結果が得られた。 実試料を分析するには、まず帰属のための手法を確立する必要がある。本研究では、レーザー波長を有効数字5桁以上の精度で求められるウエーブメータを利用してデータベースを作成する方法及びスペクトルデータの類似性から試料分子を同定する方法についても検討した。
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