研究概要 |
アルミニウムのヒドロキシキノリン錯体(ALQ)を発光物質,また,ジアミン化合物(TPD)を正孔輸送物質として用い,これらを積層した薄膜として作製したEL発光素子は極めて高い輝度が得られることから注目されている。しかし,その動作機構については不明な点が多い。本研究では有機物と電極の界面について注目し,これまでに電荷注入過程に関して以下のことを明かにすることができた。 EL素子を流れる電流および輝度の電圧依存性を詳しく調べたところ,用いる電極の種類や,その前処理条件に大きく依存していることがわかった。カソードとALQ界面での電子注入過程については,界面に存在するエネルギー障壁を熱的に越えて電子がALQ層に注入されていることがわかった。さらに,この障壁高さは,マグネシウムとの間では0.57eV,アルミニウムとの間では0.90eVと決定された。カソード金属によるEL特性への影響は基本的にはこの障壁高さの違いによって説明された。しかし,素子を流れる電流値はこのような障壁高さから予想されるものよりはるかに小さく,ALQ層へ注入された電子の一部が素子内部に取り込まれずに電極へ戻るような過程が存在することがわかった。このような現象は有機物/金属界面に特有のものと考えられ,注目される。また,アノードとTPD界面については,アノードとしてITOを用いた場合の正孔注入の障壁高さが約0.4eVと決定された。 以上の結果から,素子全体のエネルギー構造を描くことが可能となった。EL素子においては低電圧印加時に発光効率が低くなるが,その原因が二つの電極との界面の障壁高さの違いによることもわかった。なお,良好な素子動作条件下では素子内の電場の分布が再構成されて,電子,正孔の注入速度のバランスが保たれていると考えられる。
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