研究概要 |
本研究は,Langmuir-Blodgett (LB)膜や二分子膜などの分子膜中で無機物をナノレベルで合成することにより,有機-無機ナノ複合薄膜を作製し,その物性や機能の解明を目指すものである.前年度は,ステアリン酸LB膜を硫化水素で処理(S処理)し,さらに金属イオン水溶液への侵漬(I)-硫化(S)のサイクルを繰り返すことにより,ZnS,CdS,PbSの金属硫化物がLB膜極性層間でナノレベルで生成・成長したステアリン酸-金属硫化物ナノ複合膜が作製できることを報告した.今年度も引き続き同合成法による有機-無機複合膜の作製と機能物性について検討した. 1.ステアリン酸塩のLB膜が安定に作製できないCuなどの金属種でも,n-オクタデシルアセトアセテートのような金属イオンに対する配位性官能基を有する成膜物質を用いて金属錯体のLB膜を作製し,これを前駆体とすればI-Sサイクルの繰り返しによる金属硫化物の合成および有機-無機ナノ複合膜の作製ができることを見出した. 2.本法において,硫化水素の代わりにセレン化水素ガスを用いれば金属セレン化物が,ヨウ化水素ガスを用いれば金属ヨウ化物が得られた.ただし,PbI_2のように水への溶解度が大きい物質では,生成したPbI_2がI処理中に溶解してしまい成長は不可能であった.従って,目的とする無機物の溶解度が小さいことが,本合成法を応用できる条件であることが明らかとなった. 3.複合膜の機能物性として,前年度は第三高調波発生(THG)測定によりステアリン酸-PbS複合膜が三次光学非線形性を有することを報告したが,今年度は縮退四波混合(DFWM)法を用い,その特性についてさらに検討を加えた.その結果,ステアリン酸-PbS複合膜がガラス中にドープしたCdS_xSe_<1-x>に匹敵する優れた非線形性を示すこと,さらにI-Sサイクルの繰り返しによりその性質を最適化できることを明らかにした.
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