研究概要 |
蛋白質工学上の諸問題を解決するための一環として前年度には環元蛋白質のSH基と特異的に反応し,混合ジスルフィド結合を速やかに形成するメタンチオスルホネート誘導体を種々合成した.それらは側鎖に正電荷,負電荷,あるいは中性親水基を持ち,還元蛋白質のSH基にそれぞれ正電荷,負電荷あるいは中性親水基を可逆的に導入できるものである.昨年度はこれらの試薬を還元蛋白質のSH基と反応させた結果,塩基性蛋白質であるリゾチームには正電荷を,酸性蛋白質であるBSAには負電荷を導入すると、これらの蛋白質は変性状態でも水に溶けることを示したが,本年度はこれらの試薬の性質のさらなる検討と蛋白質工学への応用を試みた。 1.ジスルフィド結合はアルカリ性では不安定なことが知られているので,これらの試薬でSH基を可逆的に修飾(保護)した還元リゾチームをpH8,40℃でトリプシン消化し,消化ペプチドの分析を行った結果,導入した保護基はこの条件で少なくとも17時間は安定であり,したがって大腸菌に生産された外来性蛋白質をこれらの試薬で可溶化し,さらにN末端を酵素的にプロセスすることが十分に可能であることがわかった。 2.5種類存在するヒトの膵臓型リボヌクレアーゼ(8個のシステイン残基を含む塩基性蛋白質)の内の4種類(RNase1〜4)を大腸菌に不溶性のインクルージョンボディとして菌体内に大量生産させる系を開発した。このうち多量の細胞壁断片を含むインクルージョンボディからは直接活性型に巻き戻すことができなかったRNase2とRNase4について、SH基を上記カチオン型の保護試薬で修飾したところ可溶性となり,細胞壁成分から簡単に抽出できた。しかも抽出したRNase2とRNase4は効率よく活性型に巻き戻った。さらに大腸菌にインクルージョンボディとして生産させた分泌型FGFリセプターの抽出と巻き戻しにもカチオン型の試薬は非常に有効であった。
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