多フッ素化合物は疎水性と共に疎油性を有し、炭化水素に比べて圧倒的に優れた耐酸化性や各種気体溶解度など大変興味深い特性を有している。炭化フッ素鎖と通常炭化水素鎖を同一分子内に極性基の両端に有する界面活性剤を合成することができれば、水中あるいは炭化水素中に於て、水相、炭化フッ素相、炭化水素相の三層構造を有する分子集合体の形成が期待できる。本研究では短鎖炭化フッ素と長鎖炭化水素をアンモニア基の両端に有する新規多フッ素化界面活性剤を合成し、これらが水中で形成するミセルやベシクルについてその界面の特性と多フッ素化相の内部環境に焦点を当て、新しい化学反応場としてどのような特性を有するのかを明らかにすることを目的とした。 新規多フッ素化界面活性剤が形成する分子集合体の化学反応場としての特性。 長鎖炭化水素鎖(C_<12>〜C_<18>)を一端に、炭化フッ素鎖(C_1〜C_8)を他端に有する計14種類の新規カチオン性界面活性剤が形成する表面多フッ素化分子集合体の化学反応場としての特性について詳細に検討した。一端に長鎖炭化水素鎖、他端にも炭化水素鎖を有する計9種類の新規カチオン性界面活性剤が形成する炭化水素型分子集合体についても比較検討した。前年度までの検討により合成した界面活性剤の水中での分子集合体形成(ミセル、逆ミセルおよびベシクル)およびその界面微細構造が明らかになっている。ミセルおよび逆ミセル界面における電子移動反応を観測することにより化学反応場としての特性を検討した。アンチモンポルフィリン錯体を増感剤とする可視光による水酸化物イオンからの電子移動反応は多フッ素化ミセル中顕著な反応加速効果を受けた。詳細な速度論的回析、界面近傍の局所水酸化物イオン濃度の測定などから電子移動素過程の反応速度定数が水中と比較して約1000倍加速されることを明らかにした。多フッ素化界面に取り込まれた水酸化物イオンが炭化フッ素鎖の疎水効果により脱溶媒和され活性化される事が分かった。今後の反応場設計の指針を得ることができた。
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