研究概要 |
抗菌性あるいは抗腫瘍性などの重要な生理活性を有する化合物(マクロライドやプロスタグランジンなど)は、一般に多くの不斉中心を有し、その立体化学(不斉)が生理活性と密接な関係を持つ。この観点から、現代の有機合成化学の分野では、標的化合物の立体化学(不斉)の制御を高度にしかも効率的に行なえる不斉合成法の開発が最大の課題となっている。もちろん、この大きな問題の解決には様々なアプローチが考えられ、世界中で激しい開発競争がくりひろげられている。エン反応は、市販のオレフィンをそのまま求核剤として用いるため、究極的な不斉合成法となりうる大きな可能性を秘めている。しかしながら不斉合成法としてはこれまでほとんど未開拓の反応であり、特にエン反応を鎖状化合物の不斉合成手法として開発しようという視点はこれまでに殆どなかったものである。本申請研究は、そうした背景のもとエン反応の潜在的有用性にいち早く着目し、「エン反応を基盤とする効率的な不斉合成法」の開発と、標的とする「生理活性物質の不斉合成」への応用を目的とするものである。 本申請研究では主に鎖状不斉誘導法の開発を指向し、以下の3テーマに焦点を絞り検討した。 a)内的不斉誘導の検討 平成6年度までの研究で種々のカルボニル化合物(GCHO)を親エン体とするエン反応を検討し、そのジアステレオ選択性(内的不斉誘導)を明らかにした。平成7年度は、特にフローラル-エン反応のジアステレオ選択性を検討し、極めて高いシン-ジアステレオ選択性で生成物が得られることを明らかにした。 b)相対的不斉誘導の検討 ペプチド系抗生物質等の直接的不斉合成法となるアミノアルデヒドのエン反応を検討し、非対称1,1-二置換オレフィンをエン体として用いても単一の位置異性体が完璧なシン-ジアステレオ面選択性で得られることを明らかにした。 c)イミン-エン反応の(不斉)触媒化 平成6年度までのカルボニル-エン反応の不斉触媒化に関する研究成果に基づきシラトロピック型イミン-エン反応の触媒化に成功した。
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