研究概要 |
初年度においては、四酢酸鉛を一電子酸化剤として、飽和アルコールと一酸化炭素からなるδ-ラクトンの一段合成法を見出すことが出来た。本年度においては、本方法を光学活性点を有する生理活性ラクトン合成へ応用することをめざし、本反応の立体化学について検討するとともに、種々の官能基が存在する場合の反応を検討した。 水酸基のついた炭素の立体化学は本反応を通じて保持される。一方、カルボニル化の反応点となる4位の炭素上での立体選択性は認められず、1および4位に置換基を有する場合にはシスおよびトランスのほぼ等量の混合物としてδ-ラクトンが生成する。このような知見を踏まえて、カ-ペンタービ-の性フェロモンの一段合成への応用を検討した。光学活性は市販の(R)-(-)-2-ヘキサノールと一酸化炭素との反応を四酢酸鉛の共存下に行ったところ、シスおよびトランスの2-メチル-5-ヘキサノリドが生成した。液体クロマトグラフイ-によりこれら異性体は容易に分離された。光学活性な充填剤を用いてガスクロマトグラフイ-による分析により、単離されたシス体はほぼ100%の光学純度を持つcis-(2S,5R)-2-メチル-5-ヘキサノリドであることがわかった。すなわち、本方法により以前になくもっとも簡単な経路でカ-ペンタービ-の性フェロモンの合成が達成された。 一方、高脂血症治療薬であるコンパクチン類合成のビルデイングユニットとなるメバロノラクトンの合成については、3位にあるヒドロキシ基の導入のために、1,2-ジオールの2級アルコール部分を各種保護基により保護し反応を検討したが、フラグメンテーションが優先することがわかった。したがって、この場合、3位のヒドロキシ基の導入は本ラクトン合成の後に行うべきであることが示唆された。
|