研究概要 |
δ-ラクトン類の骨格合成法の開発は重要な研究課題の一つであるが本研究においては古典的方法の改良研究ではなく、概念的に新しい一段合成法、すなわち、母核には飽和アルコールを、またカルボニル部分には一酸化炭素を組み込む合成法の開発を行った。各種の一電子酸化剤を用いて反応のスクリーニングを行なった結果、四酢酸鉛を用いることにより、期待した反応が生起し、δ-ラクトンが一段の操作で合成出来ることが明らかとなった。すなわち、δ位を遠隔点活性化することで、位置選択的に一酸化炭素を導入し、良好な収率でδ-ラクトン類を合成することに成功した。最適反応条件を検討する中で見出された主な知見は(1)本反応は1級および2級アルコールにうまく適用できる。(2)遠隔点活性化の対象となるδ炭素はメチルおよびメチレンのものにうまく適用ができる。(3)ヒドロキシ基の根元の炭素は反応を通して立体化学が保持される。(4)競争反応の制御には一酸化炭素圧力の増加ならびに50°C以下の反応温度を保つことが効率的である、などである。これらの知見をふまえて、カ-ペンタービ-の性フェロモンの一段合成に本反応を応用した。光学活性な(R)-(-)-2-ヘキサノールと一酸化炭素の反応を四酢酸鉛の共存下に行なったところ、シスおよびトランスのδ-ラクトンが生成した。単離したシス体は100%の光学純度を有するシス-(2S,5R)-2-メチルヘキサノリド、すなわち、カ-ペンタービ-の性フェロモン化合物であることがわかった。一方、高脂血症治療薬であるコンパクチン類合成のビルディングユニットとなるメバロノラクトンの合成も検討したが、3位のヒドロキシ基を当初から備えた基質を用いた場合にはβ-フラグメンテーションが優先することがわかった。したがって、メバロノラクトン合成に本方法を応用するには、3位のヒドロキシ基の導入は、ラクトン骨格の構築後に行うべきであることが強く示唆された。
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