本研究は、テルル原子上でのラジカル置換反応を利用する、新しい合成反応の開発を目的としている。本年度は、テルリドと種々のオレフィン類およびアセチレン類との反応について、その適用範囲を明らかにするとともに、この反応をビニルテルリドの新規合成法として確立し、合成化学的応用に向けて展開することを主目的とした。さらに、本反応により生成させたビニルテルリドを、種々の有機金属種に変換する新反応の開発を行った。本年度の成果は、下記の通りである。1.ジアルキルテルリドに2当量のアセチレン類を反応させることにより、ジビニルテルリドの高効率的かつ立体選択的合成法を確立した。2.アセチレン類へのテルリドの付加反応の立体選択性が、遷移状態における置換基同士の立体反発の効果により説明できることを明らかにした。3.テルリドのテルル一炭素結合解裂の位置選択性が、生成するラジカルの安定性の差に基ずく事を明らかにした。4.電子吸引性置換基を有するテルリドを種々のオレフィン類に付加させることにより、テルリドの新しい合成法を開発した。5.ビニルテルリドと種々の有機金属試薬との反応を検討した結果、有機リチウム、アルミニウム、亜鉛、およびジルコニウム化合物とトランスメタル化反応が進行し、対応するビニル金属種が生成することを見いだした。さらに、この方法で生成させたビニル金属種は、遷移金属触媒などを用いることにより、有機ハロゲン化合物等とのカップリング反応に利用できることを明らかにした。
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