本研究は、「π-配位子系による炭素カチオンの安定化」という新概念に基づき、ビニル化合物のリビングカチオン重合を可能とする新規開始剤系の開発を目的とする。平成6年度は、主としてビニルエーテルおよびスチレンの重合において、このようなπ-配位子系を系統的に探索した。 (1)ホウ素アニオン塩による炭素カチオンの安定化 塩化水素/四塩化スズ開始剤系によるイソブチルビニルエーテルの重合は、通常の条件下では急速な重合が起こりリビング重合とはならないが、ここにπ-配位子系として、芳香環を持つホウ素アニオン塩を添加すると、分子量分布が狭く、分子量の規制されたリビングポリマーが生成することを見いだした(式1)。ホウ素アニオンの種々の類縁体を検討した結果、芳香環にフッ素を持つ塩が特に有効であることを明らかにした。さらに、同じ開始剤系によるスチレンの重合においても同様な結果を得た。 (2)イミダゾール誘導体による炭素カチオンの安定化 (1)と同様な重合条件下で、ホウ素塩とは構造の全く異なるπ-配位子系として、ブチルイミダゾールおよびその誘導体を添加剤として用いても、スチレンのリビングカチオン重合が可能となることを見いだした。
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