本研究は、「π-配位子系による炭素カチオンの安定化」という独自の新らしい概念に基づき、ビニル化合物のリビングカチオン重合を可能とする新規開始剤系を開発することを目的とする。平成6-7年度の2年間にわたり、スチレンおよびビニルエーテル(VE)の重合において、この概念による新規開始剤系を探索し、あわせてこれらの重合の生長種の性質を核磁気共鳴分光法(NMR)により直接解析した。その成果は以下のように要約される。 (1)π-配位子系の探索と新規開始剤系の開発 塩化水素/ルイス酸開始剤系において、生長炭素カチオンを安定化し、重合の精密制御を可能とする種々のπ-配位子系を探索した結果、以下の3群によりスチレンおよびVEのリビング重合が達成された。 (1)対アニオンにおけるπ-配位子系:テトラフェニルホウ素などの対アニオン (2)添加剤におけるπ-配位子系:イミダゾール等のπ-配位子系塩素性化合物 (3)活性化剤におけるπ-配位子系:フェノキシ基等のπ-配位子系をもつチタン化合物 (2)多核種NMRによる生長種の直接解析 上記および関連するリビング重合に対応したモデル反応系を低温でNMRにより直接観測し、生長炭素カチオンの性質および系中のπ-配位子系と対アニオンあるいは活性化剤との相互作用などを検討した。まずNMRにより炭素カチオンの直接観測が可能でることを確立した後、リビング重合条件下では、上記のように設計した添加剤および活性化剤中のπ-配位子系により、生長炭素カチオンの濃度が著しく低下していることを見出した。 以上のように、本研究により、「π-配位子系による生長炭素カチオンの安定化」という概念がリビングカチオン重合の一般的な開発原理であること実証した。
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