研究概要 |
理論段数が著しく高い分離・分析法であるキャピラリー電気泳動は、生体分子のなかでも核酸に極めて有効である。この分析法にアフィニティーのあるリガンドを持つヒドロゲルを用いることにより、また、種々の合成高分子の機能を用いることにより新しい核酸の精密分離システムを構築することを研究の目的とした。 初年度に、ポリビニルアデニンをアフィニティーリガンドとしたポリアクリルアミドゲル電気泳動において核酸の20塩基中の1塩基のミスマッチを検出するシステムを確立した。安定な高分子アフィニティーリガンドに存在するアデニンが核酸のチミンを認識した結果である。しかし、このシステムの欠点として、2本鎖DNAを熱変性により1本鎖DNAとした後、分析することが避けられないことがあげられる。最終年度は、2本鎖DNAと相互作用するインターカレーターの核酸の認識能を明らかにすることを目的に研究を行った。初年度に基礎的な知見を得ているマラカイトグリーンを側鎖に持つ水溶性高分子を用いた系を検討した。ビニルマラカイトグリーンとアクリルアミドの共重合体を用いて、合成核酸であるPoly(dA-dT)_2,Poly(dG-dC)_2、そして、Calf Thymus DNAを分析の対象とした。核酸とマラカイトグリーンを持つ高分子の混合物の可視吸収スペクトルと円二色性スペクトルを詳細に検討した結果、A-T塩基対を認識することを明確にするに至り、精密分離の基本となる知見を整理することができた。その他、新規なヒドロゲルの開発や、核酸の精密分離に不可欠なキャピラリー内壁のコートについても検討を加えた。従来のポリアクリルアミドゲルを用いたシステムでは、キャピラリーのシリカ表面の電気浸透流の影響を完全に押さえることは難しく、繰り返し使用に限界があった。ポリビニルアルコールでシリカ表面をコートし、ヒドロゲルを内包するシステムが高い再現性を示すことを見いだした。これらの知見は、核酸にとどまらずタンパク質の精密分離にも応用が可能である。
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