繊維の高強度・高弾性率化を目的とした振動ゾーン延伸及び振動熱延伸をポリエチレンテレフタレート、ナイロン及びポリプロピレンなどの繊維に適用し、以下の結果を得た。 (1)種々の振動周波数、振動変位、印加張力及び延伸温度のもとで繊維を延伸した。その結果、繊維の白化や切断などが起きない範囲では、振動変位と印加張力が大きいほど得られた繊維のヤング率、動的貯蔵弾性率は高くなった。しかし、振動周波数については、未延伸状態で既存の結晶を含むナイロンやポリプロピレン繊維などと、未延伸でほぼ非晶質のポリエチレンテレフタレート繊維では、効果的に延伸できる周波数は異なる。すなわち、前者は後者より低い周波数で振動の効果が現われた。また、動的粘弾性測定での損失正接において、振動下で延伸した繊維のガラス転移に基づくα分散ピークは振動を加えない場合と比べると低くなり、ピーク温度は高温側へシフトする。このα分散ピークの相違は振動下で延伸した繊維の非晶鎖の運動性が、無振動の場合と比べ、結晶相でより一層拘束されていることを示唆する。 (2)振動下と無振動下で処理した繊維の複屈折、微結晶・非晶相の配向係数、結晶化度や結晶サイズを測定した。その結果、振動ゾーン延伸及び振動熱延伸繊維の結晶化度は無振動下で処理した繊維に比べて低い。また、結晶サイズは振動下で得られた繊維のほうが小さい傾向にある。結晶の配向性では両者に大きな相違は観察されない。しかし、非晶鎖の配向性には相違がみられ、振動下で得られた繊維の非晶配向係数は高い。すなわち、振動は結晶化を抑制し、非晶鎖の配向性を高める効果がある。 以上の結果から、振動ゾーン延伸及び振動熱延伸では、繊維の力学的性質を支配する非晶鎖の配向性を高めることで繊維の高強度・高弾性率化が図られたと考えられる。
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