研究概要 |
青色光の情報伝達について光シグナルの受容から形態分化誘導にいたる過程を物質レベルで追求し、その制御機構解明の基礎資料を得ることを目的とした。本研究では、イネの葉身屈曲と粘液細菌のフルーティングボディ形成の二つの光形態形成に焦点をあて研究を行った。 暗黒下で栽培した黄化イネは、植物ホルモンであるブラシノステロイド(以下BSと略記)の処理を受けるとラミナジョイント(第2葉の葉身と葉鞘の基部)を支点にして著しい葉身屈曲が起き、同じ現象は青色光照射によってももたらされた。青色光照射は、黄化イネ体内の葉身屈曲活性を著しく増加させるが、屈曲活性に占める内生BS(ティーステロン,タイファステロール,カスタステロン,ブラシノライド)の量は増加しなかった。増加は、BSに相乗的に働くBS共力物質の作用によるものと判断された。非照射イネには共力物質の作用を阻害する物質が存在し、クロマトグライ-で除去すると照射イネと同じ屈曲活性に回復することがわかった。青色光の照射は、共力阻害物質の作用を取り除く役割を担っていると想定される。青色光の効果は、3時間照射でも、48時間照射でも同じであった。共力物質、阻害物質は、共に極めて微量で、光に不安定な物質であることから同定に至らなかったが、予想される共力物質のモデル化合物をいくつかの合成化合物の中に見いだすことができた。 原核生物で最も進化した粘液細菌のライフサイクルの中で、フルーティングボディを形成するときに青色光を必要とし、その際カロチノイド生合成の活性化が不可欠であった。カロチノイド生合成が阻害されると光照射下でも形態分化が起きず、カロチノイドと形態分化の正の相関が確認された。本菌は、青色光によって初めて形態形成できる特徴を有し、しかも光受容体となりうる植物色素が重要な要素をもっていると考えられるので、今後植物の光形態分化の青色光による制御機構を解明する上で有益な情報を提供してくれるだろう。
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