本研究の目的の一つとして、糖質分解酵素の微視的反応機構の合理的な統一モデルの構築を意図しているが、この目的を達成するための一環としてα-グルコシダーゼの基質認識や反応機構を解析した。 (1)糸状菌結晶α-グルコシダーゼの基質認識機構の解析 1)トリチウム-ラベルした自殺基質の合成と酵素失活機構の解析: 自殺基質であるConduritol B Epoxide(CBE)を二つのルートで有機合成したが、NaBT_4を用い^3Hを導入することにより、[^3H]-CBEを合成した。これをCBE標識ペプチドの単離に用いて本酵素を修飾し、その失活反応の速度論的な解析と標識反応機構の解析を行った。同様の手法を他の起源のα-グルコシダーゼにも応用して良好な結果を得た。 2)CBE標識部位(触媒基)の決定: [^3H]-CBEを本酵素に作用させ、完全に失活させ、プロテアーゼ消化に供した。得られたペプチドから放射活性を有するペプチド(触媒基修飾ペプチド)を単離し、気相シークエンサーにより配列解析を行った。この結果、本酵素のサブユニットP1およびP2のうち、サブユニットP2のN-末端から224番目のアスパラギン酸残基(Asp224)が活性発現に直接関与するアミノ酸残基であることが判明した。 (2)糸状菌結晶α-グルコシダーゼの糖鎖構造の解析 本酵素は約25%の高マンノース型の糖鎖を含んだ糖タンパク質である。アミノ酸配列の解析から24個のアミノ酸に糖鎖の存在が判明し、15個のアミノ酸に結合したN-結合糖鎖の全構造を解析し、全アミノ酸配列中の糖鎖の分布位置の確認を行った。
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