研究概要 |
脱窒光合成細菌Rhodobacter sphaeroides F.S.denitrificansの生産するモリブデン酵素、DMSO reductase(DMSO-R)の遺伝子解析から本酵素の全アミノ酸配列解析に成功した。その結果本酵素は42残基のプロ配列を含む822残基からなるモノマー酵素で、1分子内に1原子のモリブデンと新規プテリンからなるモリブデンコファクターを含んでいた。本酵素の一次配列の相同性を検索したところ、E.coli由来のbiotin sulfoxide reductase,TMAO reductase,DMSO reductaseとそれぞれ48%、42%および35%と高い相同性を示した。この相同性の高さから共通に考えられる基質を検証したところ、本酵素はDMSOのみならず、biotin sulfoxide,methionine sulfoxideの他、合成したmethyl phenyl sulfoxide以下、幅広い基質特異性をもつことが分かった。その他TMAOをはじめとするN-oxideに対しても活性を持つこと、また一連の基質の構造比較からsulfoxideの一方にbulkyな基が付くことにより反応速度が変化し、構造と活性に相関が認められた。さらに、sulfoxideに対する立体選択性を検討したところ、本酵素はS-sulfoxideを選択的に還元することが示された。現在この立体選択的酵素還元法の天然物有機合成化学への応用を検索中である。 DMSOの還元物であるdimethylsulfide(DMS)は近年、水圏および大気圏を含む地球物質循環系において、水圏の植物プランクトン、光合成細菌、その他の海洋性細菌により生成され、大気中に拡散して気候変動に大きく影響することが分かってきた。DMSOはこれまでに有機溶媒としてのみ人々の注目を受けてきたが、近年の研究では、自然界にも広範に存在するらしいこと(これまで分析法がなかったことなどで、分析されていなかった)、またDMSO資化能を持つ生物種がかなり広範に分布することなどが遺伝子の研究などから分かってきた。本研究の成果を踏まえて水圏における生物由来のDMSO,DMSなどのイオウ化合物の生成と地球環境レベルでの循環を解明することを検討中である。
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