我々はこれまで、微生物とくに担子菌のxenobioticリグニン分解能力に注目し、基礎および紙パルプ産業への応用的研究を進めてきた。担子菌のなかで白色腐朽菌は、天然の三次元ポリマーである木材中のリグニンを分解できる唯一の微生物群であり、その酵素系は他の微生物にみられない特異的な機能を有している。本研究では、白色腐朽菌から高活性リグニン分解菌を選抜し、それを環境汚染物質の分解に適用し、その分解メカニズムを明らかにすることにより、効果的な処理システムを確立するための基礎的知見を得ることを目的とした。環境汚染物質としては、昨年度は塩素化ダイオキシンを取り上げたが、今年度は、ポリ塩化ビフェニール(PCB)の分解を試みた。 当研究室では、野外の腐朽材2000点より分離した木材腐朽菌250株のストックを持ち、その中から既知菌株と比較してリグニン分解活性の高い菌株50株を保有している。まずこの菌株によりPCB類の分解を試み、有用株をスクリーニングした。培地条件はリグニン分解活性が発現する系を用い、分解実験は、福岡県保健環境研究所に設置されている安全キャビネット中で行い、所定期間処理後、常法に従い残存PCB類を抽出し、同研究所に設置されているHPLCにより同定、定量した。その結果、PCB高分解菌2株の分離に成功した。さらに同菌株により産生される酵素系を精査したところ、リグニン分解に関与していると考えられている酵素であるラッカーゼ、リグニンペルオキシダーゼ、マンガンペルオキシダーゼの関与の可能性は低く、新たな酵素系の関与の可能性が示唆された。
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