本研究は、死後の筋肉タンパク質の、分子レベルでの変化を支配するCa^<2+>の主要な制御器官である筋小胞体やミトコンドリア、ならびに呈味物質生成の因となるタンパク質分解酵素を内包しているライソソーム顆粒、に及ぼす超高圧処理の影響を形態学的、組織化学的および生化学的に研究し、通常の低温熟成(牛肉の場合、2〜4℃で2週間程度)下でのこれら細胞内小器官の変化と比較検討し、筋肉から食肉への合理的な変換方法およびその促進方法を確立するための基礎とするものである。今年度は、細胞内小器官のなかの筋小胞体に対する高圧処理の影響を主に研究し、以下のような結果が得られた。 1.高圧処理した筋肉から調製した筋小胞体の膜構造の崩壊は150MPa以上の処理圧力で、圧力の増加とともに促進された。 2.筋小胞体の収量は、150MPa以上の処理圧力で減少した。 3.ATPase活性への影響は、筋小胞体の標品(高密度画分と低密度画分)で異なる傾向が認められた。 4.Ca^<2+>の取り込み能は、処理圧力の増加とともに減少し、200MPaの圧力処理でゼロとなった。 5.屠殺直後の筋肉では筋小体領域に局在していたCa^<2+>が、圧力処理により筋原線維全体に拡散することが電子顕微鏡による観察で明らかになった。 6.その他、ライソソーム内外に存在するタンパク質分解酵素に関する研究も進んでいる。特に、カンパインとその阻害物質(カルバスタチン)に及ぼす圧力処理の影響と肉の軟化との関係を考察した。 高圧処理は短時間で、通常の低温熟成よりも大きな変化を筋細胞小器官にもたらすことが明らかになった。
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