研究概要 |
本研究は、死後の筋肉タンパク質の、分子レベルでの変化を支配するCa^<2+>の主要な制御器官である筋小胞体やミトコンドリア、ならびにタンパク質分解酵素を内包しているライソソーム顆粒に及ぼす高圧処理の影響を形態学的および生化学的に研究し、通常の低温熟成(3〜4°C)下でのこれらの細胞内小器官の変化と比較検討し、筋肉から食肉への合理的な変換方法およびその促進方法を確立するための基礎とするものである。 1.筋小胞体やミトコンドリアの膜構造の破壊が、処理圧力の増加につれて拡大したが、Ca^<2+>イオンの膜内への取り込みと関連するATPase活性には、200MPaまでの処理圧力では、有意な低下が認められなかった。 2.筋小胞体やミトコンドリアのCa^<2+>取り込み能力は、処理圧力の増加につれて低下し、200MPaの加圧でほとんどゼロとなった。 3.筋小胞体やミトコンドリアの細胞内小器官に局在していたCa^<2+>イオンが、高圧処理により筋原線維内に拡散していくことが、電子顕微鏡による観察から明らかになった。 4.高圧下、あるいは熟成中のコネクチン分子の開裂はカルパイン(Ca^<2+>イオンによって活性化される酵素,Calpain)によって引き起こされることを明らかにした。 5.圧力によって引き起こされる筋肉中の総タンパク質分解活性の増大は、ライソソーム膜の破壊によって酵素タンパク質が膜外に溶出したことによる。また、筋肉内の総カルパイン活性も、圧力処理によって増加することを確認した。 高圧処理によるCa^<2+>制御機構の脆弱化と筋肉構造の脆弱化が圧力処理によって引き起こされる食肉の軟化・熟成促進機構の主因である。
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