魚醤油(うおしょうゆ)は、鰯などの魚粉を原料にして、麹菌で発酵分解させて製造した新しいタイプの醤油様調味料である。しかしながら、魚醤油には、風味の点では申し分は無いものの、色調(褐色化)に大きな問題点がある。従って、魚醤油多品目の料理に広く適用するためには、発酵工程および保存過程で色調を制御し、安定した色調の魚醤油を提供することが必要である。 平成6年度の研究は、魚粉・小麦を原料に種々の麺菌を加えて調製した「魚醤油の諸味」および大豆・小麦を原料に醤油用麺を加えて調製した「大豆醤油の諸味」に対して、各熟成期間中の色調の変化を比較したところ、大豆醤油が魚醤油に比べて有意に着色度が高かった。この差は、大豆醤油の着色には酵素(ポリフェノールオキシダーゼ)の関与が大きく、魚醤油の着色にはその関与が小さいことを明らかにした。平成7年度では、非酵素的な着色反応(アミノ-カルボニル反応)に焦点を合わせた。すなわち、種々の糖およびアミノ酸のモデル系を用いて、魚醤油の熟成・保蔵過程で起こり得る褐色化反応を系統的に解析し、色調変化を系統的に測色学的な立場から以下のように検討した。グルコース-アミノ酸の系で解析したところ、ヒスチジンを除いて他の多くのアミノ酸の系での褐色化は、酸素が存在する場合よりも酸素が存在しない場合の方が促進された。この褐色化は、多種類の金属イオンのうち、Fe^<2+>が最も大きな影響を与えた。また、Fe^<2+>が共存した場合、酸素の存在下で褐色化が促進されるが、酸素が存在しない場合は促進されなかった。さらに、種々の糖とアミノ酸を組み合わせた系で色調の変化を解析したところ、ある種の組み合わせでは、褐色化以外の特異的な色調(青色・黄色・淡桃色など)を呈することも明らかにした。 以上の結果は、魚醤油の熟成・保蔵過程におけるアミノカルボニル反応に起因する褐色化の制御には、Fe^<2+>および酸素の濃度が大きな影響を与えると示すものである。
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