本研究では、魚醤油の色調を制御する方法を確立することを目的として、麹菌の種類に違いによる発酵工程の色調変化、および、熟成・保蔵過程における色調変化に寄与する反応のタイプ及び反応に関与する成分の解析を系統的に行った。 まず、魚粉・小麦を原料に種々の麹菌を加えて調製した「魚醤油の諸味」および大豆・小麦を原料に醤油用麹を加えて調製した「大豆醤油の諸味」に対して、各熟成期間中の色調の変化を比較したところ、大豆醤油が魚醤油に比べて有意に着色度が高かった。この差は、大豆醤油の諸味の中には魚醤油の諸味に比べてポリフェノールオキシダーゼ活性およびその基質であるポリフェノール類の含量が高かったことから、大豆醤油の着色には酵素(ポリフェノールオキシダーゼ)の関与が大きく、魚醤油の着色にはその関与が小さいことを明らかにした。次に、非酵素的な着色反応(アミノ-カルボニル反応)に焦点を合わせて検討した。すなわち、種々の糖およびアミノ酸のモデル系を用いて、魚醤油の熟成・保蔵過程で起こり得る褐色化反応を系統的に解析し、色調変化を系統的に測色学的な立場から以下のように検討した。グルコース-アミノ酸の系で解析したところ、ヒスチジンを除いて他の多くのアミノ酸の系での褐色化は、酸素が存在する場合よりも酸素が存在しない場合の方が促進された。この褐色化は、多種類の金属イオンのうち、Fe^<2+>が最も大きな影響を与えた。また、Fe^<2+>が共存した場合、酸素の存在下で褐色化が促進されるが、酸素が存在しない場合は促進されなかった。さらに、種々の糖とアミノ酸を組み合わせた系で色調の変化を解析したところ、ある種の組み合わせでは、褐色化以外の特異的な色調(青色・黄色・淡桃色など)を呈することも明らかにした。 以上の研究成果は、魚醤油の熟成・保蔵過程における褐色化の機構を明らかにしたもので、魚醤油の色調制御に対して有益な知見を提供することが期待される。
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