本研究では、海洋生物を素材として新しいタイプのチロシンキナーゼ阻害物質を開発することを目的として、種々の海洋無脊椎動物や海洋微生物の抽出物に含まれる天然物の探索研究を行った。以下に本年度の研究成果の概要を報告する。 沖縄本島・本部半島で採取したSpongiidae科の海綿より2種の新規セスキテルペンキノン(ナキジキノンCおよびD)を分離し、これらが二環性セスキテルペンとアミノ酸(L-セリンとL-スレオニン)が結合したキノンからなるユニークな化学構造をもつことを明かにした。さらに化学誘導により、種々のL-またはD-アミノ酸が1個または2個セスキテルペンキノンに結合した一連の化合物を調製した。これらは代表的なチロシンキナーゼのひとつであるc-erbB-2キナーゼに対して阻害活性(IC_<50>22〜120μM)を示したが、EGFレセプターキナーゼやプロテインキナーゼCに対する活性は弱いことが判明した。一方、石狩湾で採取した二枚貝より分離した海洋細菌Flavobacterium sp.の菌体抽出物より新規セラミド関連スルホン酸誘導体Flavocristamide AとBを単離し、それらの構造を立体化学を含めて解明した。これらはDNAポリメラーゼαに対する顕著な阻害活性が認められた。一般にセラミドはDNAポリメラーゼαに対してとくに作用を及ぼさないことが知られており、Flavocristamide AとBに含まれるスルホン酸基が阻害活性の発現には重要なことが示唆された。
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