本研究では、海洋生物を素材として新しいタイプのチロシンキナーゼ阻害物質を開発することを目的として、種々の海洋無脊椎動物や海洋微生物の抽出物に含まれる天然物の探索研究を行った。沖縄本島・本部半島で採取したSpongiidae科の海綿より4種の新規セスキテルペンキノン(ナキジキノンA〜D)を分離し、さらに化学誘導により種々のアミノ酸が結合した一連の化合物を調製した。これらは代表的なチロシンキナーゼのひとつであるc-erbB-2キナーゼに対して阻害活性を示したが、EGFレセプターキナーゼやプロテインキナーゼCに対する活性は弱かった。また、石垣島産の海綿Psammaplysilla pureaから分離した新規ブロモチロシン化合物9種(プレアリジンJ〜R)のうち、スピロシクロヘキサジエニルオキサゾール環を含むプレアリジンJ、K、P、およびQはEGFレセプターキナーゼに対する阻害活性を示した。一方、石狩湾で採取した二枚貝より分離した海洋細菌Flavobacterium sp.の菌体抽出物からは、DNAポリメラーゼαに対する顕著な阻害活性を示す新規セラミド関連スルホン酸誘導体Flavocristamide AとBを単離した。この他、当研究室で以前分離した海綿動物由来のブロモピロール化合物や環状ペプチド、ホヤ由来のイミノキノン系アルカロイド等がチロシンキナーゼ阻害活性を示すことを見い出した。以上の化合物の活性の強さはハービマイシン等の既知のチロシンキナーゼ阻害物質と比較すると幾分弱いが、選択性の向上を含めて、今後構造活性相関を検討することにより、優れたチロシンキナーゼ阻害物質の創製につながることが期待される。
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