アポ酵素機能をもつフラビン人工酵素の構築を目指して、水素結合により高酸化活性フラビンを捕捉するフラビンレセプター分子を開発した。2、6-ジアミノピリジン誘導体はフラビンのウラシル部位と水素結合することによりレセプター分子となるが、3個の水素結合ため会合定数が小さいという欠点があった。そこで高酸化活性フラビンである6-アザフラビンと5個の水素結合が可能であるグアニジニウムイオンを有するメラミン誘導体を設計、合成した。6-アザフラビンと5重水素結合の形成を分光学的に確認し会合定数を求めた。クロロホルム中の6-アザフラビンに対する会合定数は10^<4->10^<51>M^<-1>で強力なフラビンレセプターになることがわかった。フラビン酵素の多彩な機能はイソアロキサジン環のヘテロ原子への水素結合により制御されていると考えられているので、6-アザフラビンの酸化還元活性に及ぼすレセプター分子の効果を速度論的に調べた。6-アザフラビンによるNADHモデル化合物の酸化反応においては、レセプター分子の効果はほとんどなかったが、4個の水素結合が可能なベンゾジプテリジン(BDP)による酸化では、大きな加速効果が見られた。この結果はNADHモデル化合物の酸化においては、N(5)-位への水素結合は重要ではなく、N(1)-位の水素結合が加速因子になることを示唆している。それに対し、フラビンによるチオールの酸化はチオールがC(4a)-位を攻撃する機構で進行するのでN(5)-位への水素結合は加速因子として働く。事実グアニジニウムイオンを有するメラミン誘導体のレセプターは6-アザフラビンによるチオールの酸化を加速することがわかった。このレセプターはアポ酵素モデルとみなすことができ、さらに反応に有利に働く機能因子をレセプターに導入すれば、高次触媒系の構築の有力な構成因子となると考えられる。
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