研究概要 |
本研究では,発光細菌Photobacterium phosphoreum由来のルシフェラーゼおよびFP_<390>を対象としてX線結晶解析を行い,それぞれの三次元構造を決定することを目的とした. Photobacterium phosphoreum由来のルシフェラーゼについては,結晶化条件の精密化を、補欠因子を含まないアポ酵素,FMNを補欠分子として含むホロ酵素,酵素-基質生成物複合体について行ったが、X線構造解析に用いるに十分な結晶な得られなかった. FP_<390>については,シンクロトロン放射光を用いて測定した3Å分解能の回折データに基づいて,分子置換法を適用することによって結晶構造の解析に成功した.さらに分解能を上げて6.0〜2.7Åの反射に対して結晶構造の精密化を行い,最終モデルの結晶学的R値は24.0%である. FP_<390>の全体構造の特徴は,モノマー2分子が非結晶学的2回軸で関係づけられてダイマー構造をとっていることである.Q-フラビンは各モノマーにつき2分子存在し,それぞれN末端近くの分子表面とダイマーの分子境界付近に位置している.ルシフェラーゼのβ-サブユニットのアミノ酸残基と相同性が高い領域は2カ所に分類できるが,そのうちの1カ所は分子境界のQ-フラビンに接近している.分子境界に存在するQ-フラビンではFMNのリビチル基が溶媒領域に突きだし,ミリスチン酸部分がタンパク質分子の内部に入り込んでいる.電子密度図上ではミリスチン酸部分がはっきりと見え,カルボニル酸素はイソアロキサジン環のRe面側へ,脂肪酸鎖はSi面側へ伸びている.一方,分子境界付近のQ-フラビンの場合では電子密度図上でFMN部分が比較的はっきりと見えるが,ミリスチン酸部分は非所にあいまいで,イソアロキサジン還に対する配置を特定できていない.このような電子密度が現れる理由として,分子境界のQ-フラビン結合部位に2種類のQ-フラビン(ミリスチン酸のイソアロキサジン環との結合部位が異なるQF_1とQF_2)が混在する可能性があげられる.ルシフェラーゼの反応において,副生成物,QF_2の生成を避けることができないとすれば,FQ_<390>モノマー内に2カ所存在するQ-フラビン結合部位の役割はそれぞれ異なっており,分子境界のQ-フラビン結合部位は副生成物,すなわちQF_2を収納しておく場所であると考えることができる.
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