ウシ心筋チトクロム酸化酵素の結晶化条件に及ぼす界面活性剤の効果を詳細に検討し、デシルマルトシドで安定化した標品から酸化型で1.9Å分解能程度の反射を示す結晶が再現性は不十分であるが得られた。しかしながらこの界面活性剤のアルキル側鎖の炭素数が9でも10でも結晶成長は大きく異なり、X線回折能のはるかに低い結晶しか得られなかった。一方、糖部分の構造も結晶化条件に大きく影響し、マルトースからサッカロースに置換しただけで、微結晶さえ得られなくなった。つぎに、このデシルマルトシドで安定化した標品の結晶の種々の誘導体を作成した。アジ化物結合型とシアン化物結合型は完全酸化型酵素結晶をそれぞれの配位子を含む溶液に浸漬することによって調整した。一方、還元型と還元型-CO結合型は自動酸化性が極めて強いため、窒素気流中でも結晶をそれぞれの型に安定に保つことは不可能であった。しかしながら、母液中では結晶を完全に固定することは不可能であるので、還元剤を含む溶液と平衡化したSephadexゲルによってX線回折用のキャピラリー単結晶を固定した。さらに、嫌気性を完全にするため、単結晶の両側に微結晶の層を置いた。単結晶の酸化状態および配位子結合状態は還元剤のみをキャピラリーに満たしたときの単結晶の吸収スペクトルによって確認した。これら全ての誘導体の、2.8Å分解能以上のX線回折を確認した。一方、ドデシルシュウクロースによって安定化されたウシ心筋チトクロムbc_1複合体の、4℃で2.8Å分解能のX線回析能を示す結晶が得られた。しかし、ウシ心筋チトクロム酸化酵素と異なり、界面活性剤の構造は結晶化条件にあまり大きな影響を与えなかった。さらに、再現性が不十分であるため、精製条件について詳細に検討している。
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