研究概要 |
本研究は、底生有孔虫の殻形態をDNAの塩基配列に基づいて分子生物学的見地から評価しようとするものである。研究は、有孔虫がどのような殻形態を持っており、それがどのような変異を示すのかを理解することと、DNA解析を行うことの2方向から進めている。平成7年度は、すでに形態解析を行ったGlabratella属についてDNAの塩基配列を決定した。 有孔虫からのDNA抽出およびPCR法による増幅はPawlowski et al.(1995)の方法に従い,核のribosomal DNAのlarge subunitの約650塩基の増幅を行った。プライマーは,有孔虫に対して特有に働くspecific primerを用いたところ,極めて効率よく有孔虫のDNA断片を得ることが出来,かなり小さい個体からもDNAの抽出が可能になった。Sequencingは大腸菌にクローニングする方法を用いた。 日本近海に生息するGlabratella属の有孔虫4種(Glabratella opercularis, G. nakamurai, G. patelliformis, G. milletti) および近縁種Angulodiscorbis quadrangularisの塩基配列を解析した。その結果,種間での塩基配列の違いは,最大14%であった。分子系統樹を作成したところ,Glabratella属内では,形態が類似しているG. opercularisとG. nakamuraiが系統的に近い結果となった。一方,かなり異なった形態を持つために別の属に分類されているAngulodiscorbis quadrangularisはGrabratella属の中にグループされ,従来の形態分類との違いが現れた。しかし,生殖に関係がある形質である腹側面の放射状彫刻の形態はAnguloldiscorbisもGlabratellaも類似していることから,分類形質を見直すことによって形態分類と分子系統とのギャップが埋められる可能性がある。
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