研究概要 |
本研究は、底生有孔虫の殻形態をDNAの塩基配列に基づいて分子生物学的見地から評価しようとするものである。研究は、有孔虫がどのような殻の形態変異を示すのかを理解することと、DNA解析を行っている。平成8年度は、Glabratella属とBolivina属についてDNAの塩基配列を決定した。 有孔虫からのDNA抽出およびPCR法による増幅は平成6・7年度と同じ方法を用いた。シークエンシングはプラスミドベクターに導入してクローニングした後、シークエンサーを用いて行った。 本年度は,化石として多産する種類の中から,形態的な特徴がはっきりしたBolivina属および近縁属の有孔虫4属7種(Bolivina robusta,Bolivina cf.robusta,Saidovina subangularis,S.amygdalaeformis,Rectobolivina raphana,R.bifrons,Brizalina spissa)の塩基配列を解析した。種間での塩基配列の違いは,最大28%であった。節約法とNJ法によって分子系統樹を作成したところ,いずれもRectobolivina属の有孔虫2種が系統的に近くなったが,Bokivina,Brizarlina,およびSaidovina属はお互いにかなり離れた系統関係を示した。とくにSaidovinaはBolivina属よりもRectobolivina属と同じクラスターに区分された。しかし,Saidovinaと Rectobolivinaとはともに膨らんで厚い断面を持っており,従来の形態分類ではあまり重要視していない機能形態的な要素に注目することによって分子系統樹と形態分類とを統一的に解釈できるようである。 Glabratella属については,この属の中でもっとも変異の高いGlabratella opercularisの地域個体群内の遺伝的な変異を調べた。静岡県下田市の地域個体群の中に,形態では区別できないが,遺伝的には種内変異を越えた変異が観察された。
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