1.南西諸島の伊江島、下地島、伊良部島および与那国島の海底洞窟内の生物について調査し、洞窟内の生物群の特性を明らかにした。貝類については、巻貝類ではクチキレエビスガイ科、スカシガイ科、リュウテン科のサンショウスガイ亜科、エビスツブガイ科、リソツボ科、二枚貝類ではBentharca属、シラスナガイモドキ科、ワタゾコツキヒガイ科などに所属する種が多数を占める。 2.甲殻類は海底洞窟内にわずかに生息する。これらの多くは未知の種で、大きな卵を持つものが認められた。海底洞窟内では二枚貝類と同様に、K淘汰が働いている可能性がある。 3.海底洞窟のサンゴ類について共同研究者とともに分類学的に検討した結果、六放サンゴ類の非造礁群体サンゴの3属4種が識別され、これらはすべて新種で、そのうちの1種は新属であるこたがわかった。これらのサンゴ類中に生きた化石種が含まれているかどうかは、判定に必要なデータがないため今後の研究を待たなければならない。これまで知られている近縁種は、数十メートルから数百メートルの太陽光の届きにくい環境に生息してPり、海底洞窟での生息環境に類似している点は注目に値する。 4.海底洞窟中の貝類に見られる穿孔痕と修復痕の出現頻度を調べた結果、2カ所の洞窟では非常に低い値が得られた。このことは海底洞窟内ではこれらの捕食活動が外部に比べて極めて少ないことを示し、“中生代の海洋変革"以前の浅海域での生態環境との共通点が認められた。 5.海底洞窟内の貝類の形態は、巻貝については平巻やへそ穴が開くなど、また二枚貝では深所潜入型や殻の腹縁内面に鋸歯がないものが多いことなど、古・中生代の貝類群との類似がみられた。海底洞窟の貝類群の原始性は分類学的以上に生態的に顕著であることがわかった。
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